原状回復新ガイドラインを問う

〜トラブル減小への期待が高まる〜
 2月10日に国土交通省は原状回復の新ガイドラインを発表した。今回の改訂では原状回復にかかるトラブルの未然防止に関する事項が整理された。増え続けるトラブルを防止できるか、今後が注目される。今回はこの発表を受け、今後の対応をどう考えているのか、全国の有力管理会社に聞いた。

<ガイドライン改訂ポイント>特約の留意点を掲示
 契約時にチェックリストを作成し、部位ごとの現状を当事者が立会のうえで充分に確認することを加えた特約について以下の留意点イ、ロ、ハを掲示した。
イ、特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。
ロ、賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。
ハ、賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
 以上のような原状回復にかかるトラブルの未然防止とともに、損耗・毀損の事例を追加、「Q&A」の新設、掲載判例の更新・整理と新たな判例を追加した。
※詳細については(財)不動産適正取引推進機構で販売している冊子を参照。


契約書等の見直し検討
 新ガイドラインの発表を受け、本誌では全国の管理会社に向け緊急アンケートを行った。アンケートを見ると、7割が今回の改訂に対して不満を感じると回答している。「明確な線引きがされていない」ことがその理由だという。
 具体性に欠けていると指摘するのは、Tハウス(高知県高知市)の同社長だ。
 「実際に訴訟などに発展したときにどのような解釈をされるのか、判例が出てこないことには分かりません。もう少し具体的に示しておかなければ、トラブルを防止することにはならないと思います」(同社長)
 同社では、通常2カ月分の敷金を徴収しているが、そのうち1カ月分は償却している。隣接する香川県では、3カ月分の敷金を2カ月分償却という制度が一般的であることが高知県で知られていることもあり、トラブルは現在までほとんどないという。
 「しかし、東京都でも原状回復の制度が条例化されましたし、その流れは地方にも影響を及ぼしてくると思います。現在の契約書には原状回復についてガイドラインに基づくとしか記載していませんが、見直しを図る必要がありそうですね」(同社長)
 現在、どのように変えていくべきか検討している状態だという。


あいまいさに不満との声も
 「あいまいな部分が多い、というのが新ガイドラインに対する不満点です。」
 こう語るのは、東京都武蔵野市を中心に約5000戸を管理しているR社(東京都武蔵野市)の同社長だ。
 同社長が語るあいまいな部分とは、例えば「タバコのヤニ汚れ」について、今回の改訂ではクリーニングで除去できる程度の汚れは自然損耗とみなすが、クリーニングでは除去できないものについては自然損耗とは認められない、としている。
 「タバコのヤニ汚れについてもその判断基準はあいまいです。いっそ、タバコはよい、もしくは悪い、と決められる方が対処に困らないとお思います。あいまいなままにしておくことがトラブルを増加させている原因となっているのです」(同社長)
 同社では以前から今回の改訂で加えられた「入居時に物件の現状を部位ごとにチェックできるリストを作成し、当事者立ち会いのもとでチェックする」ことを実践している。
 「オーナーさんの中でも、現在の風潮を理解できていない人も多いのが現状です。私たち不動産屋がいう話では、原状回復について世間一般雄常識であると理解してもらえないのです。国がもっとしっかりとした方針を示して欲しいと思います」(同社長)


明確さの欠如は問題発生の基に
 「ガイドラインの特約の要件にある『暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること』という部分に疑問を感じます。『合理的』とはいったいどういうことなのか非常に分かりにくい」
 こう話すのは、T社(京都府京都市)の同社長だ。
 このガイドラインに法的束縛は大きくないとはいえ、国交省が示しているものであるため、影響力は大きい、入居者はガイドラインを国交省のホームページから出力して、もってくるケースが増えている、こうしたあいまいさを残すとかえってトラブルになりやすいという。
 「もう少しオーナーのことを考えて、ガイドラインを作ってほしい。家賃に原状回復費用が含まれているというのであれば、どのくらい含めて考えてよいのか明確にして欲しい」(同社長)


居住前の確認はコスト面で困難
 「契約時にリストを作成して入居者に立会の上でチェックするというのは難しいと思います」
 H社(宮城県仙台市)の同社長は語る。同社では、以前は入居時にチェックリストを作成し、退去時にそのリストを参照する方法を採用していた。確かに詳細に確認作業をすれば敷金精算のトラブルを回避することができる。しかし、手間がかかりすぎるので、現在は入居時のチェックは省いているという。特に忙しくなる繁忙期には大きな負担になってしまうのだ。
 「1月〜3月にかけてのシーズンに入居時のチェックを完璧にこなすのは不可能に近いです。専門的な訓練を受けた人間でなければ、故意・過失なのか自然損耗なのかの判別はつきません。アルバイトではダメなのです。コストダウンのために、やめざるを得ませんでした。契約時のチェックは、管理戸数の多い業者になればなるほど、負担が大きくなるのでは(同社長)


見本として掲示し話をまとめ易く
 ガイドライン改訂に関し、肯定的な味方をしているのは、N社(愛媛県松山市)の同社長だ。
 「オーナー・入居者それぞれの原状回復への解決が異なるとトラブルに発展します。ガイドラインは政府の方針を見本として示せるので、話をまとめやすくなりました」(同社長)
 しかし、法的な拘束力がないため、オーナーの説得は難しいという。同社ではガイドラインをいかにオーナーに理解させるかに注力している。月1度自社で発行している「満室最前線」と名付けたオーナー新聞に、ガイドラインについての説明を掲載するほか、セミナーの開催、個別説得など余念がない。
 「現在は、敷金3カ月を徴収していますが、入居者して1年以上の退去の場合、8割を返金しています。残りの2割は減価償却費としています。返金額の中からクリーニング代のみ徴収しています。入居者から徴収する額が少ないため、オーナーへの啓蒙活動は重要です」(同社長)
 今後は、新ガイドラインに基づいた対応を検討していく方針だという。


居住者保護は当然の成り行き
 K不動産(神奈川県大和市)の同社長は今回の新ガイドラインの策定を肯定的に受け止めている。原状回復トラブルを未然に防ぐことが可能になるとの期待を寄せているからだ。
 「オーナー・家主にとって不利なだガイドラインだという話をよく耳にしますが、私はそうは思いません」(同社長)
 新築物件のみを賃貸している訳でもないし、入居者は定期的に家賃を振り込んでいるという現実を考えたとき、ガイドラインが入居者保護に傾くのは当然の成り行きであると考えるという。
 しかし、ガイドラインを進歩させ法律化することには反対している。具体的な法律を定めることで、裁判が急増し、やっかいになることを懸念しているのだ。
 また、不動産仲介は個別契約なのでケースバイケースで対応せざるを得ない。
 「そもそも、条件・家賃・築年数が異なる物件に、多種多様の入居者が住んでいるため、法律で全ての事柄を一本化し、客観的な判断を下すということは不可能ですから」
 こう同社長は語る。
 「今回のガイドラインは、家主にとって難しい内容ではありますが、借り手市場へと変化をした現在の賃貸市場に即したものといえます」
 こう語るのはT社(東京都新宿区)の同社長だ。
特に地方のオーナーの中には、以前のような貸し手市場時代の意識が抜けず、「貸してやる」という態度で、入居者に対し充分なサービスも提供できていない人も少なくない、と同社長。この意識改革を促すうえでも新ガイドラインは有効だと考えているという。
 「当社としてもオーナーに向けたセミナーを行うなどし、少しずつでもいいですから、意識を変えさせてゆかなければならないと実感しています」(同社長)
 首都圏を中心に約4万戸管理しているA社(東京都千代田区)では、新ガイドラインに対応すべく、現在社内での検討を進めているという。
 「現在も基本的にはガイドラインに沿った方向で原状回復を行っています。新ガイドラインに基づいたこれからも内容を精査していくというのが、現状です」
 こう同社取締役は語る。
 同社ではオーナーに対して原状回復費用の負担を求めるために、定期的にエリアごとのセミナーを開催するほか、個別の説得も行っている。
 入居時の徹底した説明をし、トラブル防止に注力しているのは、U社(神奈川県川崎市)だ。
 退去時のトラブルは、入居時の説明を徹底することで防止できると考えています。当社では契約の際の原状回復の説明に1時間費やすこともあります」こう同社長は語る。
 同社では、契約時に「重要事項の補足説明書」を基に説明を行う。説明書には退去時に借主が負担する原状回復及び修繕費用が明記されている。用紙には契約者が承諾した場合に記名、捺印する欄が設けられている。更に、原状回復時の料金も事前に説明。例えばクロスの張替えは1u○○○○円からなどと料金基準がわかりやすくまとめられている。
 入居前に各戸チェックしているためトラブルの発生は抑えられるという。
(全国賃貸住宅新聞2004.3.1より抜粋)
 先月、2月6日に朝日新聞の一面に『敷金清算に「東京ルール」トラブル防止へ都が新条例案』という見出しの記事が掲載されました。

 以下に内容を抜粋します。

 『賃貸マンションやアパートを退去する際に敷金を巡るトラブルが増え続けていることから、東京都はこれまで不透明だった修繕費について、借手と貸手が何を負担するのかを明確にする「東京ルール」を作る。都内で民間の賃貸住宅に暮らす世帯は200万を超えており、借手保護が狙いだ。悪質な不動産業者については名前を公表することも検討中で、2月下旬に始まる都議会に業者を指導するための新条例案を提出する。
 都は、民間賃貸住宅を退去する際、敷金で清算される部屋の修繕費について、借手が負担すべきものを、通常の使い方を超えるような使い方で生じた破損や汚れに限定する方針だ。   具体的には、判例などをもとに、普通の使い方をしていて色あせた畳の表替えや、日焼けした壁紙の張り替えなどの補修費、借手が通常の掃除をしていた場合のハウスクリーニング代などは、特別に契約にない限り、貸手側の負担とする考えだ。詳しい負担内容は、今後、規則で定める。
 その上で、仲介する不動産業者に対し、「東京ルール」と契約内容について、正確に借手に説明するよう求める。条例では罰則は設けない予定だが、怠った業者に勧告したり、名前を公表したりすることも検討中だ。』(朝日新聞2004年2月6日)


 朝日新聞(または東京都)は何故か「不動産業者」と特定していますが、これを「オーナー」と置き換えてみた場合、どのような気持ちになりますか。
 また、「特別に契約にない限り」=「特約を結ばない限り」ハウスクリーニング代などは借主に請求できない。逆に言えば、きちんと契約さえすれば請求してよいという内容なのですが、一般の消費者の方はどう受け止めるでしょうか。
 冒頭の「悪質な不動産業者」等の印象から入居者よりの内容が書いてると思いこみ、「特別に契約にない限り、貸手側の負担とする」という言葉の印象が薄くなり、ひょっとしたら「ハウスクリーニング代などは、貸手側の負担とする」と誤解される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 但し、このような記事が大手新聞の一面に記載されること自体、今や借手市場へ大きく傾いていることを象徴しているのではないでしょうか。ひょっとしたら、今後は入居前に最低限かかる原状回復費用を明示しなければならなくなるかもしれません。そうした場合は、家賃や礼金、間取りと同じようにお部屋探しの大きな判断材料となることでしょう。
 今後は、原状回復費用を「なるべく入居者から多くもらって欲しい」ではなく、「客観的に見て公平な費用負担」というスタイルでないと市場に受け入れられなくなっていきます。
 もちろん、当社としても、オーナー・入居者の双方の負担が軽くなるように、最小単位で交換のできる建材や通常より長持ちするクロスや建具などの調査・ご提案を常にしていかなければならないと思っております。その節は、一人でも多くのオーナーに耳を傾けていただければと思います。

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株式会社ココ・トーシン
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