敷金トラブル事件簿


 昨年10月に関西地域で敷金問題研究会(大阪府大阪市)が敷金の返還を求めて一斉提訴を起こした。これに注目した各メディアが続々と敷金について取り上げるようになった。こうした事態を迎えて今後、入居者から預かった敷金は返還することが当たり前になる時代になったといえるかもしれない。新たな敷金返還問題と各管理会社やオーナーの対策について取材した。


”借金”しかけた窮鼠の反撃
 関東を中心に退去者からのクレームを聞いて地道に敷金の返還運動を行っているのが、N経営労務事務所(千葉県松戸市)だ。
 中でも現在もっとももめているのが東京都板橋区にある物件のケースだ。住宅金融公庫の融資により建てられたペット可物件の入居者から連絡が入った。社会保険労務士・行政書士である同事務所の代表はいう。
 「物件はファミリータイプが30戸ある大きな賃貸マンションです。オーナーは倉庫会社となっていました」
 平成14年12月に、賃料の3カ月分にあたる46万円の敷金に加えて、退去時のリフォームで更に費用がかかったとして、少額訴訟により30万円の支払い命令を入居者に突きつけたのだ。困った入居者はサラ金にローンをしようかとも考えたが、取りあえずN経営労務事務所に問い合わせたのだという。
 「相談を受けてオーナーの所に説明に言ったところ、少額訴訟を起こして請求していた30万円については、訴えを取り下げましたが、敷金の返還については応じていません」(同代表)
 オーナー側の主張は「入居者が出ていった後を見てみるとペットによる傷や汚れがひどく、原状回復にコストがかかった。ペット可物件であるといっても、ペットの傷については入居者が負担するべきだ」というもの。
 これに対して、入居者側は「ペット可物件であるといっても特約にペットによる損耗分に関する原状回復ルールはない。ペットが付けた傷にしても15万円程の費用で原状回復はできるはずだ。30万円程帰ってきてもおかしくない」と反論している。

住民を集めて対策を協議
 そこでN経営労務事務所と提携している内装業者ニックスグループの社長は、1月26日にトラブルにあった元入居者と、現在もその物件に住み続けている7世帯を集めて情報交換を行った。すると以下のようなことが分かった。
 まず、入居者によって、契約内容が全く違っているということだ。入居者Aは入居時に敷金3カ月分を払っているのにたいして、入居者Bは礼金3カ月に敷金1カ月という条件で契約を結んでいる。また、特約の内容も入居者間で異なっていたのだ。
 物件は公庫融資により建築されたもので、オーナーチェンジにおいても現オーナーが債務を引き継いでいる、その為住宅金融公庫法が適用されるが、同法においては、入居者から敷金として3カ月分の賃料を預かるほかはいかなる金品も取ったり預かってはならない、という一文が入っている。つまり、礼金を取っていること自体、公庫法に合っていないということがいえると同代表は主張する。
 また、現在も生活している入居者3世帯によると入居時に部屋を原状回復した様子は全くなく、前の入居者が出ていったままの状態だったという。それぞれ、入居できる状態にするように要求してようやく入居できたというのだ。更に、管理費とは別に掃除費を新たに入居者から徴収していることも判明した。オーナーからはニックスグループが呼びかけた集会に出席しないように勧告するビラもまかれていたという。
 2月3日に行われた2回目の入居者集会はマスコミが取材に駆けつけた。テレビに映りたくないという入居者がいたため出席したのは総勢5世帯だったが、すでに退去していた入居者は敷金の返還を、現在も入居している4世帯は礼金の返還と退去時の原状回復ルールの明確可を求める申し入れをオーナーに対して行った。
 「公庫物件なので、礼金を取られるのはおかしいのです。そして前例があることから退去の時に法外な費用を請求されるのでは、と入居者の方達は警戒しています。トラブルのない生活が送れる賃貸契約とすることを目的として申し入れたのですが、オーナーは不在で女性社員に要望書を渡しました」(同代表)

退去者からの相談を受け付け
 事務所に持ち込まれる案件について同代表は次のようにいう。
 「国土交通省が出している『原状回復のガイドライン』を知らない方が多く、これを説明すると1割程のオーナーさんを除いて納得してくれて、敷金の返還請求に応じてくれていますね」(同氏

一般の報道を見てオーナー不安増大
 たびたび敷金の問題が報道されているのを見て、入居者が敷金の認識を改めている一方でオーナー、管理会社側には不安が広がっている。
 約6000戸を管理しているK不動産(熊本県熊本市)ではオーナー会に参加しているオーナーに対してアンケート調査を行った。すると、原状回復時の負担を決める基準や割合についての質問や不安が書き込まれたアンケートが4割程返ってきたという。
 オーナーから物件を預かる管理会社も対策をとり始めている。
 8500戸を管理しているTホーム(京都府京都市)では現在オーナー会に対して敷金の扱いに関する基本方針を出すように申請している。
 「これまでは京都は日本全国の中でもオーナーが有利な商習慣となっていました。しかし、これだけ全国的な論議になってしまうと京都だけは別格というわけにはいきません」
 また管理や仲介をすることで「オーナーに教唆している」とみなされないかを調査中だという。

できるだけ汚さぬ工夫を
 敷金の精算時にトラブルを起こさないためには原状回復コストをかけないことが重要だ。
 昨年10月に入居者からの問い合わせが40件以上来たというA土地では汚れの度合いを下げる工夫を始めている。
 管理している物件に禁煙マンションを設けて煙草のヤニについては入居者が負担することを特約にしている。クロスに汚れが付くのを防いでそのまま次の入居者に入ってもらえるようにするのが狙いだ。さらにテレビと冷蔵庫については電気焼けを防ぐために壁から15センチ離し、壁には耐熱シートを張ること、という条件も設けた。
 新しい原状回復のルールづくりが必要となっている。

(全国賃貸住宅新聞2003.2.24より抜粋)



「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の概要
○ガイドラインのポイント

@原状回復とは
 原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、いわゆる自然損耗、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃貸人負担としました。
⇒原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化

A「通常の使用」とは
 「通常の使用」の一般的定義は困難であるため、個別具体の事例を次のように区分して賃貸人と賃借人の負担の考え方を明確にしました。
A:賃借人が通常の住まい方、使い方をしいても、発生すると考えられるもの
B:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの
⇒このうち、B及びA(+B)については賃借人に原状回復義務があるとしました。

B経過年数の考慮
 前記BやA(+B)の場合であっても、自然損耗や通常損耗が含まれており、賃借人はその分を賃料として支払っていますので、賃借人が修繕費用の全てを負担することとなると、契約当事者間の公平を欠くなどの問題があるため、賃借人の負担については、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど賃借人の負担割合を減少させるのが適当です。
(国土交通省 住宅局より参照)


[戻る]