定期借家権の損得勘定


立ち退きリスク解消し短期賃貸など貸し方も多様に

 いよいよ3月1日より定期借家権がスタートする。今回、この新しい法律について徹底研究し大特集を組んだ。契約上の注意点など事務レベルの問題から、今後、市場がどう変わっていくかまで分析してみた。定期借家で契約を結ぶことによって、これまでのアパート経営で最も頭を悩ませる問題であった滞納の解決もかなり楽になる。また、立ち退きトラブルも一気に解消できる可能性が強まったという。一方では新法導入で供給増加による家賃相場下落を心配する声もある。家主にとっての損得勘定を追ってみた。

再契約型なら家賃下落もない
 「絶好のビジネスチャンスが到来しました」
 現在、全国各地を飛び回り講演活動を行っているT社(東京都中央区)H税理士は声を大にしてこういう。
 同氏は早くから定期借家権によって市場がどう変化するかを研究してきた人物の一人だ。去年のスピード可決以来、不動産業者、ハウスメーカーをはじめ全国から講演依頼が殺到。現在3月の施行に向けて東奔西走の毎日を送っている。
 なにしろオーナサイドからみれば約60年ぶりに家主の権利が復活することになったのだ。メリットは当然大きいはずだ。
 下の表はH氏が独自にまとめた借家法の新旧比較だ。これを見てもわかる通り新法による契約では収益の透明性が高まり、立ち退きリスクも解消。さらに物件の売却もしやすくなるなど、まさに良いことずくめだ。

正当事由借家(旧) 定期借家(新)
期間 事実上なし 定期
家賃改定
継続賃料
抑制主義
再契約時
市場賃料
契約の透明性
(収益力)
有り
不良テナント 排除不可能 期限まで
立退き 正当事由
立退料
なし
建て替え
大修理
計画的
売却 空室
テナント付OK

 H氏はまた、新法のデメリットになると言われる家賃下落についても心配はいらないという。
 「みなさん、よくおっしゃるのは、期間付ということで借主に対してプレッシャーをかけることになってしまうのではということです。そのため、借り手が見つからず家賃は下がってしまうのではと懸念されている方が、大勢いらっしゃいます。しかし、定期借家契約には二種類あります。これを一緒くたにしてしまうので誤解が生じるのです」
 H氏のいう二種類とは期限終了後の再契約を前提にするものとしないものという意味だが、再契約を前提にした契約であれば従来からある賃貸借契約とほとんど変わりはない。すなわち定期借家権付の賃貸契約でも家賃下落の可能性はうすいというわけだ。

退居期限定まり対処もしやすく
 また、注目したいのは、新法の画期的な部分、正当事由から解放された点だ。
 現在オーナーが最も頭を悩ませているのが不良テナントの問題だ。家賃滞納をしたり黙ってペットを飼うなどのルール違反を犯しても旧法では正当事由の前に保護されてしまった。
 もし、立ち退きを求めても契約解除に至るまでにはかなりの手間とコストがかかるのが当たり前だった。
 しかし定期借家権契約を結ぶことにより、そのリスクが解消される。
 「なんとなく行動が不審」といった契約を解除させることが難しい相手でも、退去の期限が定まっているためその先の対処ができるようになる。

ルールに従った書面作り必要
 オーナー取材を通じて定期借家権に関する質問を行った時、最も多い回答は、「どう利用したらよいかわからない」である。次に多いのは「知らない」だ。定期借家権に対する理解度は残念ながらまだまだ低い。一方ではまた法律の具体的な運用面でも、家主単独で考えるのは難しい点が多いことも事実だ。
 特に新法では、弱者保護の観点から、入居者に対しての事前通知や確認を様々な面で家主側に義務づけをしており、ルールにしたがっての書面作成が必要になってくる。これまでの経験だけでは対応しきれなくなる事柄も多いだろう。
 様々な形態の貸し方ができるようになるなど、定期借家権は賃貸経営のビジネスチャンスを大きく広げる可能性を持っている。長期契約と短期契約を上手に組み合わせることで、空室「0」を可能にする契約形態も出現するかもしれない。それだけに管理会社などの専門家とよく相談し、間違いのない運用をしたいものだ。

1.そもそも「定期借家権」とは何か
 3月から施行されるこの法律が国会で成立したのは去年12月9日のことだ。くしくも開戦記念日の12月8日の翌日には決まった偶然に対して「これでようやく家主の戦後が終わったか…」と感慨を持った業界関係者もいたはずだ。
 というのも、入居者に有利にできた借家法が抜本的に改正されるのは戦後初めてのことだからだ。
 借家法が誕生したのは大正10年。しかし、現在の借家ルールを定めた法律は、昭和16年に出来上がった。この年は言うまでもなく太平洋戦争が勃発した開戦の年。
 出征する戦士に、内地で家族がせめて住まいだけは確保できるようにという安心感を与えようと、入居者を保護する。「正当事由」が制度化されたのだ。
 これは、家主側に特別な事情がない限りは入居者からの賃貸借契約更新を拒めなくした決まりで、契約期間がいくら決まっていても、いったん借りたら入居者は事実上いつまでもそこに住み続ける権利を持つことができた。
 その結果、戸建て借家などでは俗に「貸したら取られたも同然だ」といったことになり、さらにそこを立ち退いてもらうには多額の立退料を支払うはめにもあい、家主にとっては著しく不利な状態になっていたわけだ。今回、成立した新法では貸主である家主と借主である入居者は完全に対等な関係となる。
 契約の内容は双方の合意の上で自由に決めることができ、新法での契約は、更新はなく、期間の定めがある。
 家主の立場で一口で言えば、“期間がきたら必ず返してもらえる”賃貸借契約ということになる。
 それにしても“借りたら返す”“貸したら返してもらう”というごくあたりまえのことが当たり前になるので、実に60年もの歳月を費やすとは…。
 まさに家主の戦後は長かったといわざるを得ない。

2.どんな物件、条件でも「定期」で貸せるのか
 新法の大きな特徴は、物件の広さや場所、家賃の高い、安い、さらには居住用、事業用に限らずどんな条件のものでも適用可能だということだ。
 たとえば、一戸建てのマイホームを海外留学中の1年間だけ他人に貸すとか、田舎に住む親の介護のため、半年間だけ不在にする都心のマンションを誰かに貸すといったこともできる。
 寒冷地などでは、通勤・通学が大変になる冬季の何カ月間かだけ都心部のアパート、マンションを短期で貸し借りされるケースも増えるだろう。
 ただし、これらはいずれも新規の契約物件に限ってOKだ。これまで数年にわたって、旧借家契約で貸していた物件を、3月以降、いったん契約をうち切って期限付きの新契約に移行させるということはできない。これはたとえ、入居者側のこうしたいという要請だとしても不可となっている。
 契約に期限が付くということは入居者側にとっては今より不利な条件となる。こうした条件を家主が強制することのないようにとの弱者保護の観点にもとづいて決められたルールだ。
 ただし、オフィスなど事業用物件や床面積200u以上の居住用物件では合意の上、切り替えも可能。また法案では「当面の間の措置」とされているため、将来は、今、貸しているアパートやマンションについても、定期借家契約へ切り換えることも可能になるかもしれない。
 しかし、将来にわたってもダメなのは、あいまいな条件での期限を定めることだ。
 たとえば「自分が死ぬまで貸すが、死んだら返してもらう」とか「息子が帰ってきたら返してもらう」といった取り決めは無効だ。
 あくまで、何年、何ヶ月という明確な期日を定めたものでなければ、定期借家契約は結べないので注意を要する。
 定期借家権の特徴
1.物件の広さ、間取り、場所、期間、家賃の高低にかかわらず 適用可能
2.居住用、事業用など用途も無制限
3.平成12年3月より以前に契約された居住用物件からの切り 替えは不可
4.事業用物件の契約切り替えは双方合意の上では可能


3.新法で契約する際の注意点は何か
 3月から定期借家権が施行されるからといって、以前から契約している物件は従来通りの旧借家契約のまま継続されるし、新しい物件も、必ず定期借家で契約しなければいけないというわけではない。
 したがって、今後は賃貸借契約では、旧借家法と新借家法の2種が存在することになり、このどちらを選んでも良いことになるわけだ。
 ここで注意したいことは、新しい定期借家権で契約を結ぼうとする際には、必ず貸主である家主側から入居者に対して、事前に、定期借家契約である旨を説明しておかなければならないようだ。
 この点について新法では貸主側に対しかなり厳重な実行を求めており、もしも、この説明がきちんと行われないままに定期借家で契約してしまった場合、それは無効となり、期限の定めのないままの旧借家法による契約とみなされてしまう。
 また当然、賃貸借契約上でも、定期借家契約であることや更新はない旨をハッキリと記入しておくことが求められる。さらに、契約を結ぶ以前の物件案内の段階で、定期借家契約であることを説明してもらう必要がある。
 実務上では、契約書とは別に、定期借家契約であることを了解したことを借主に確認してもらう確認書を作成する必要が生じてくる。専門家の間では、事前に説明したという証明にするため、できればこの確認書には契約書作成用より前の日付を入れる必要があるという意見も出ているほどだ。
 また、あくまで事前説明の義務は貸主である家主に当たるため、不動産業者に募集業務を任せている場合にも、事前にこの作業を委託する手続きをしておくことも大切だ。
 定期借家権での契約上の注意点
1.貸主が借主に対して事前に定期借家契約である旨を通知して おく義務がある
2.賃貸借契約は口頭ではなく必ず書面による契約を行うこと
3.賃貸借契約書の文面においても、定期借家契約であること、 および、更新はない旨を明記しておくこと
4.事前通知を不動産業者に委託する場合は委任の手続きも必要


4.契約の期限切れはいつまでに伝えるべきか
 法定更新によって、入居者の意志が優先されていたこれまでの借家契約においては、ハッキリ言って、契約期限はあってないのに等しかった。
 それでも、東京や京都など入居時に「礼金」をもらう慣習がある地域では、2年間の契約期間が終了するたびに、契約の更新手続きを行い、さらにその際に「更新料」を授受するケースが多く見られた。そこでは、事前に契約期限が近づいていることを通知するルールができていた。
 しかし、多くの賃貸借契約では、更新の週間自体がなく、当然、期日接近の通知も全く行われていなかった。
 定期借家契約においては、この期日接近の伝達が非常に重要になってくる。新法の取り決めでは、その通知は期限の6カ月前から1年前の間に行うとされているから、忘れないようにしたい。
 例外的には、契約期間が1年未満、たとえば3カ月、6カ月などといった短期の契約においては、通知不要とされているが、1年以上の場合は必ず必要。もしこの通知を怠った場合、あらかじめ契約で期日が改められていても、その期日自体が無効とされてしまう。
 とはいえ、期間を定めた定期借家契約自体が無効になってしまうわけではないので、万一、通知が遅れても、その通知から6カ月後には契約を終了させることができるから大丈夫だ。
 むしろ危ないのは、事前の契約期限が到来することを入居者に伝達しておきながら、肝心の期日になって、契約解除の手続きを行うことを忘れたり遅れてしまった場合だ。この場合は、貸主が定期借家契約をやめたとみなされ、期限後は、従来の普通借家に自動的に移行されてしまう恐れがある。
 こうなると、何のために定期借家で貸したのかわからなくなるので、十分に注意が必要だ。こうした失敗を防ぐためにも、プロの不動産業者に管理を委託し、トラブルの未然防止策を持っておくことが大切だろう。

<契約開始から終了までのフローチャート>

※契約期間が1年未満の場合は通知不要

5.契約期間中の中途解約はないのか

 定期借家法案が市場内に構想として浮上してきたのはわずかここ2〜3年のことに過ぎないが、その構想の内容がハッキリしてくるにしたがって期待感が高まったことは、契約の期限がつくことによって、貸主である家主が得る収益が確定される点だった。
 よくアメリカのオフィス契約などでフリーレントと呼ばれる当初数ヶ月間の無料入居サービスが話題になるが、ああした制度も、米国の場合、定期借家契約が主流で、借りた側は、いったん契約したら期間中は必ず借り続けなければならないといううことが前提になっている。つまり、5年なら5年、10年なら10年内は絶対に借り続けることが決まっているため、貸主のオーナーにしてみればそれだけ収入の見通しが確定するため「当初3〜4カ月はタダで貸しても良いか」となるわけだ。
 日本の場合は、借主の都合によっていつでも返せるようになっているため事情が異なっていた。しかし、今回新法が成立したことによってアメリカなどに市場ルールは近づいたといえる。
 ただし、60年内続いたルールを急に変えるため、新法では例外措置が設けられる結果となった。それは広さ200u以下の居住用物件に関しては、定期借家契約でも、入居者に中途解約権を与えたことだ。
 法文では「転勤、療養、親族の介護その他やむを得ない事情による場合により、自分の生活の本拠として使用することが困難になった時」と一応、条件は限定されてはいるが、ともかく定期借家契約などを中途解約にもかかわるようなことは、正直、貸主側にとっては残念なことと言わざるを得ない。もっとも、広さ200u以上あるような大型住宅やオフィス、店舗用テナントでは中途解約はできなくなるため、貸主のオーナーにとっては、収入確定のメリットが受けられることになる。
 中途解約のルール
1.居住用建物で床面積200u未満の物件
2.転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情のある場 合
3.2の条件によるものは、借主側より1カ月前の予告で中途 解約できる


6.期間中の家賃増減にルールはあるか
あらかじめルールを設ければ家賃増減請求を排除できる
契約期間が長期化すればするほど貸主である家主にとって気になるのは家賃改定の問題だ。
 旧借家法においては、たとえあらかじめ契約で取り決めがなされていたとしても、経済情勢その他の変動によって、契約当事者から家賃の増減請求ができるとされていた。
 このため、以前京都で更新ごとの値上げに異を唱えた入居者が裁判で争い、家賃値下げの判決を得るといったケースもあった。
 このように家主側にしてみれば、将来にわたって、安定した収入が得られるという保証を得ることは事実上困難だった。
 しかし、定期借家権による契約では、完全に自由契約を前提としているため、家賃改定のルールをあらかじめ特約で定めておくことが認められた。
 つまり家賃増減の請求があった場合でも、特約の法が優先されることになる。
 特に、定期借家権では、旧借家契約では民法上の規約があった最高限度期間20年の制限もなくなったので、理屈上は30年契約でも50年契約でも可能になる。そうなると、当然家賃改定ルールについても、あらかじめ特約で規定しておくことが必要になるだろう。
 この意味で、特約の優位性が認められた意義は大きい。
(全国賃貸住宅新聞より抜粋)



 以上、この先供給される物件の用途や貸主、借主の目的に応じて契約形態も多様化されていくと考えられます。
 また、契約内容もそれぞれ異なるケースが出てくる為、さまざまな角度から知識や注意点に気配りが必要となっています。 今回、大きく6つのポイントを紹介させていただきましたが、今後もまだいろいろな課題があるようです。
 当社もさまざまなケースに対応できるよう、日々勉強に取り組んでいる所存でございます。
 これからも定期借家権に関する内容、参考資料、活用方法などご報告させていただきたいと思っております



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