いわく付き物件・トラブルと対策


物件内で自殺・病死・殺人事件あなたならどうする?
 「物件はいつも満室稼動させておきたい」というのは全てのオーナーの望みだ。しかし、一旦物件で自殺や殺人などの事件が起きてしまったが故に空室になってしまうこともある。景気が停滞を続け経済苦を理由にした自殺者が急増する中、「自分の物件だけは大丈夫」という考えは通用しなくなってきた。対応が遅れた場合には、他の入居者の信頼を失って退去が続出することもあり得る。では、いざ事件が起きたときにはどう対処したらいいのだろうか。また、その後の告知義務はどうすべきか。具体例をリポートする。

事件をきっかけに全入居者が退去
 2年前のことだ。あるアパートの1階の入居者から「天井から虫が落ちてくる」との苦情が、この物件を管理するH社(東京都羽村市)に寄せられた。社員が行ってみると、パラパラ落ちてくるのはなんとウジ虫だった。これは一大事と階上の部屋を見に行くと、筆舌に尽くしがたい悪臭がする。そこで、警察立ち会いのもとでドアを開けるとそこには全身ウジ虫にたかられた無惨な遺体があった。
 死亡していたのは入居していた中年の独身男性だ。もう10年以上も住み続けていたが滞納などのトラブルの無い誠実な人だったという。
 発見された時、この男性はこたつに入った状態だった。テレビを見ながらゆっくりくつろいでいた時、突然、病死してしまったらしい。こたつもテレビも電気がついたままだったそうだ。
 遺体は死後、こたつの熱に温められ、かなり腐敗していた。ウジ虫は畳の中まで入って、床を伝って1階の部屋に落ちていたらしい。
 階下の入居者はこのアパートを即日退去して、同社の他の物件に引っ越した。また、他の2部屋も何日か後に退去して、無人になってしまったという。
 オーナーは病死した入居者の保証人に空室になった損害賠償を求めようとしたが、病死は過失ではないため法的に責任は無いという弁護士の判断を聞いて訴えをやめたという。
 しかし、一度全戸が出てしまったいわく付き物件に客を入れるのはかなり難しい。
 もともと老朽化していたこともあったため、オーナーはアパートは取り壊して、土地も売却してしまったそうだ。
 「この事件では、他の入居者への連絡が遅れたことも全戸退去した理由でした。事件を翌日になって報告したことで関係を悪くしてしまったのだと思います。その後、同じような事件が起きたのですが、事件の起きた当日に入居していた全10戸に報告したため、退去する人はいませんでした。」(同社担当)
 事件への素早い対応がその後の物件の運命を左右してしまうようだ。
 こういう事件が起こった場合、オーナーとしては次の入居者及び隣の部屋に入る人々にいつまで事件を告知しなければならないかが話題になることが多い。実際、「できれば言わないでほしい」というのが家主の本音だが対処によっては前述のように他の入居者へ説明を行うことで退去者を防ぐこともできるようだ。

おはらいで自殺者供養
 ところが「原状回復できれいになっても事件が起きた部屋は遠慮したい」という人は多いはず。霊が出る、とまではいかないまでも皆、なんとなく恐いと思うのではないだろうか。
 この心理的な障害を「おはらい」で解決したのが次の事例だ。
 6年前、世田谷区にあった賃料7万円の1Rのアパートで入居者が服毒自殺をした。
 この部屋を借りていたのは、20代の社会人女性。いつ電話しても留守で連絡が取れなくなったことを心配した友人が、この女性の住んでいた物件を管理しているM社(港区)に連絡し、合鍵で開けてみたところ遺体を発見したという。
 現場の様子から、この女性は居室で服毒自殺を図ったことが分かった。発見時は大体死後1週間くらいはたっていたという。
 警察の立ち入り捜査があったので周りの部屋の入居者だけでなく、近隣住民にまで、自殺のことが知れわたり「気持ち悪い」と嫌悪感を訴える人もいた。
 捜査後、荷物は保証人である親が引き取り、クリーニングをした。部屋は汚れていなかったので原状回復は敷金内の約10万円で清算できた。
 しかし、いくらきれいになったとはいっても、一度死者が出た部屋だ。入居希望者はいるのか、また、希望者がいたとき、どう対処すればいいのか悩んだオーナーと業者は相談して東京都庁の相談窓口に行ったところ、「おはらい」をするといいというアドバイスをもらったという。
 賃料は事件後5%引きに設定した。初めはオーナーが値下げを承諾しなかったが、3ヶ月たっても空室が続いていたので納得してくれたという。これが功を奏し、値下げ直後に新しい入居者と成約した。
 「安かったことに加え、キチンとおはらいをしてあることで、嫌悪感を少なくすることができたのだと思います。」(同社)
 民事上の問題は解決できても心理的な障害は難しい。その点、おはらいは有効な方法だろう。

不動産価値が30〜50%下がることもある
 病死・自殺・殺人のうち何があったにせよ、一度そこで死者が出たという事実がある限り、物件の価値は下がってしまう。「死体があったところには住みたくない」と考える人がいる以上、仕方がないといえるかもしれない。
 競売物件を扱っている不動産鑑定士であるT社によると、価値の下落は確かにあるという。
 同社では4年前、静岡のある旧家に隣接している300坪の土地の鑑定を依頼された。通常の評価であれば、坪単価15万円ほどだが、この旧家に隣接しているために坪7万5000円に下がった。
 原因はこの旧家の跡取りが三代続けて病死や自殺などの不審な死に方をしているからだという。「何件か周辺の家に聞き込みをしましたが、周囲ではその事実は知れわたっており誰も近寄らないといった意見が大多数でした」(同社)
 また、某地方裁判所で裁判官を含めて「自殺者が出た部屋の評価は下げるか」という話し合いがもたれたときには、その物件のある地域にもよるが、30〜50%は評価が下がるという意見がまとめられたそうだ。
 賃貸物件においても同様に賃料を値引いたり空室が出てしまったりと損害が生じる。そこで浮上するのが補償問題だ。

賃料の半年分を保証人が支払う
 事件後、ほとんどの物件では賃料の値下げをしているが、その損失した金額を保証人に支払ってもらったというケースがある。
 12〜13年前のことだが、築10年、和室2Kの物件で入居者の自殺死体が発見された。住んでいたのは20代の男性で半年前から入居していた。
 死因はガスによる一酸化炭素中毒。ガスのにおいに気づいた隣室の住人から連絡を受けて、部屋を空けたところ遺体が見つかったという。
 原状回復費用は約10万円かかったが、すべて保証人である両親が支払った。さらに、この両親から息子が「迷惑をかけた」代金を払いたいとの申し出があったため、半年分の賃料を負担してもらった。
 これは、次の客が入居する半年間は空室が続くだろうと、オーナーと管理するMホーム(福島県郡山市)、さらに両親が話し合い決定した金額だったという。
 「このときは保証人がすすんで補償をしてくれましたが、珍しいケースだったと思います。」(同社)

恋人の男性が女性を殺害
 小田急線近くのあるアパートで事件は起こった。昨年、3DKで賃料7万5000円のアパートの1階の部屋で若い女性が殺されてしまったのだ。犯人は恋人の男性だった。
 事件後、この物件を管理する新宿区のL社では完全改修とおはらいを行った。費用は入居者の敷金から出した。
 そして家賃を1万円下げて募集を開始した。
 賃料が安いことから1週間に3,4件の問い合わせはあった。しかし事件の話をすると2度目の電話はなかったそうだ。そうして2ヶ月が過ぎた。
 そこで家主と相談して更に1万5000円賃料を下げて募集をかけた。すると「別に事件のことは気にしないよ」という男性と契約を結ぶことができた。これでホッとしたのもつかの間、今度は事件を気にして上の階の方が退去してしまった。
 他の入居者から「こんな物騒な事件があったところに住んでいるのだから賃料を下げてくれませんか」という要望まで出てくるようになってしまった。
 結局、オーナーと同社が相談して、他の部屋の賃料値下げはしないことになったが、この事件のために、値下げした賃料などかなりの損害を被ったという。

入居者に半年間住み続けてもらう
 賠償金ではなく、違う形での補償を求める方法もある。
 7年前、ある物件では血なまぐさい殺人事件が発生した。
 現場となったのは品川区の一等地にある6階建ての高級マンション。全40戸のほとんどがファミリータイプの分譲物件だが、2〜3戸は賃貸用1Rだった。
 その中の1戸で事件は起こった。入居していたのは25〜26才の独身男性。地方出身の人だったという。だが当事者は彼ではなく、この入居者の父だ。息子が1週間ほど留守にすることになり、それならばと父親が上京して留守中、部屋を使うということになったらしい。
 ある日この父親が東南アジア出身の外国人女性を部屋に呼んだところ、何かのひょうしに口論になり、争った上、この女性を刃物で刺し殺してしまった。
 すぐに警察の御用となり捜査が行われたが、周囲の分譲タイプの部屋に住む人の騒ぎは相当なものだった。この物件を管理しているO社(港区)には、なぜこんな入居者を入れたのかと苦情がきたり、嫌がらせの電話も相次いだという。
 しかし、入居審査に問題はなく、入居者は事件に関わりがないこと、もし本人だとしても責任は負えないことを管理人に説明しているうちに騒ぎはおさまっていった。
 しかし、周りの苦情が収まっても客付けができる状況ではなかった。オーナーからは入居者に対し民事的な補償を請求するという話も出ていたという。
 そこで同社ではオーナー及び入居者と話し合いの結果、解決策としてこの入居者にそのまま住み続けてもらうことになった。カーペットの張り替え等は一切していないので血痕もかなり残っていたが、半年間は賃料を払ってもらった。
 原状回復はカーペット、クロスの張り替え、クリーニング等で敷金3ヶ月で清算できた。
 しかし、次の入居者が決まるまでは約4ヶ月かかった。その間何件もの問い合わせがあったが事件のことを話すと内見までは至らなかったという。はじめ賃料値下げに反対だったオーナーもここにきて、やっと1万円の値下げを了承した。9万円から8万円に下げたところで東南アジアからきた留学生の入居者を見つけることができたそうだ。「たまたま事件を気にしない人でよかったですが入居者を見つけるまでは苦労しました」
(全国賃貸住宅新聞より抜粋)



 交通事故と同様に本人(オーナーや管理会社)がどんなに気をつけても防ぎきれないものがあります。上記の例も今は人ごとだと思っていても、当事者になる可能性をゼロにすることはできません。従って、そうしたことに直面したときに冷静な行動がとれるように準備や心づもりをしておく必要はあります。
 今回の特集はほんの一例ですが、ぜひ、参考にしていただきたいと思います。



[戻る]